このページはBase Mの間野氏が発案した「接地状態で線間密着させないツインスプリング式車高調」のセッティング法を元に筆者が独自に考察、研究してツインスプリング化の方法をまとめたものです。
※個人的な研究と考察であり、間野氏から直接指導やノウハウを聞いたものではありません。
といったちょっと変わった車高調を作ってみたい方がなるべく迷わないような記事にしてみました。ご興味ある方はご覧ください。
また、2019年2月をもって間野氏のお店、BaseMは閉店することとなったそうで、正式なツインスプリングを取り扱うお店はなくなってしまいました・・・
ネット上にはもはや断片的なヒントが散らばっているだけの状態のツインスプリングですが、チャレンジしてみたいという方は先に沼にハマった者からのヒントとしてご覧いただければと思います。
※本記事で使用していたBESTEXのプライマリースプリングも終売となったため、ツインスプリング構成の再現はさらに難しくなりました。
有志でプライマリースプリングの販売をしてくれている方もいるので、スプリングはそういった所から調達してもらえればと思います。
1.ツインスプリングはこういう人向け
ツインスプリングは「乗り心地もよくてなおかつ抜群の速さを出す」セッティングではありません。
サーキットのタイムアタック目的ならシンプルにシングルスプリングで詰めていった方がより早く正解に近づけられるでしょう。
ツインスプリングは、
「スポーツ走行もするけど、通勤や街乗りもその車でする」方や
「天候、コースによって数セットも車高調をそろえられないから1セットでカバーしたい」
「自分が走るステージは2,3か所と決まっているからその数か所で困らないようにしたい」
という方向けです。
2つのスプリングを使用するために比較的低レートになる「合成レート」で動く領域が発生するために路面状況への適応力が出るのがツインスプリングです。
乗り心地が良くかつ速く走れる・・・みたいな噂というかイメージがありますが、
乗り心地の良さはあくまで副産物的なものであり、サーキット仕様のシングルスプリングに比べたらマシという程度です。また、合成レート領域が存在するためにシングルスプリングに慣れた人が乗ればレスポンスが低くてダルいという感覚を持ったりします。
タイムという結果を縦の強さ、路面やコースへの環境適応力を横の強さとするなら、
ツインスプリングは横の強さを拡げて、縦の強さはシングルに劣る、といったイメージです。
2.スプリングを買う前に
ツインスプリングのセッティングを始める前に、まずは自分が今使っている車高調で自分が作りたいツインスプリングセッティングか可能かどうか確認しなければなりません。
目的に沿ったセッティングでツインスプリング化するにはいくつか条件があります。
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2つのスプリングを組み込むため、ケース長が確保できること
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合成領域からメインレート領域に移行できるだけのダンパーストロークがあること
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スプリングを組み込んだ時のケース長で車高を調整できること
1に関してですが、ツインスプリングは2つのスプリングを組み込むため、シングルスプリングよりもケース長を長くとる必要があります。
流通しているプライマリースプリングは60mm~80mm程あるので単純にその分のケース長を確保しなければなりません。メインスプリングの自然長を短くすれば問題はありませんが、短くできればの話です。スプリングの選び方は後述します。
2に関してですが、まずは自分が使っている車高調を分解して、有効ストロークがどれくらいあるのか知っておきましょう。
測ったことないよ・・・という方がいるかもしれませんが、ツインスプリングに限らずリセッティングをするのであれば、自分が使っている車高調のダンパーストロークくらいは採寸しておくとセッティングに役立ちます。
ツインスプリングは合成レートからプライマリースプリングが密着して、メインスプリングのレートに以降し、荷重を支えます。よってある程度のダンパーストロークが必要になります。
※どれくらいのストロークが必要になるかは車種と用途によって異なるので一概に何ミリ必要とは言い切れません。
3に関しては1とも被る部分がありますが、約70mm+メインスプリングのスプリング長を収めるだけのケース長を必要とするため、結果的に車高調整が効かなくなってしまったというケースが発生することがあります。
筆者はBRZをツインスプリング化しましたが、86/BRZはツインスプリング化するとこういう傾向にありがちです。純正より高くなるケースもあります。
それでも車高を下げたい(もしくは純正程度にはしたい)場合はボディ加工もしくは社外のサスペンションアームを取り付けることで解決できることがあります。
・・・いかがでしょうか。
1章と2章を読んで、大体大丈夫そうだぜ!という方は実際に使うスプリングを考えてみましょう。
3.使うスプリングを考える
この記事をご覧いただいている方なら把握しているとは思いますが、ツインスプリング化するときは接地(1G)で密着しないプライマリースプリングを準備する必要があります。
ではそのプライマリースプリングはどうやって選定すればいいのか?
ここでありがち・・・というか実際に自分がやってしまった失敗が「合成レートを目的にしてプライマリーとメインスプリングのレートを決めてしまうこと」
「普段はレート4k位の乗り心地にしたいからプライマリーは○○kで、それで合成4kになる組み合わせのメインは ××k・・・」
のような考えでスプリングをそろえてはいけません。大抵失敗します。
1G密着しないプライマリースプリングの選定は、密着荷重で選んでください。
密着荷重でどのくらいの荷重でメインレートに移行していくかが決まります。
1.5G荷重が街乗り荷重
自分がプライマリースプリングを組み込んだのはBRZのリヤなので、BRZを参考に話をしていきますが、1Gでのバネ上荷重がわかったらプライマリーの密着荷重は1.5Gの物を選びます。
自分ので言えば密着荷重300kgですね。
全てのデータを出すとすごい量になるので割愛させていただきますが、色々な車のドラレコについているGセンサー、データロガー、OBD接続のマルチモニター等々のデータを見させてもらった結果、1.5Gあたりまでが街乗りで発生する荷重の様です。
1.5Gより低いものを選べばよりレスポンシブに、
高い物を選べば合成レートがメインレートになり、メインレート領域をしなやかなバンプラバーの様に使う…といった考え方もあるのですが、0.2〜3Gの設定差はスプリングの製造公差でズレてしまう事があるので、1.3Gの物だと接地で既に密着してしまったり、1.8Gの物だとフルバンプまで密着せず、思惑とズレた動作になりがちです。
ツインスプリングに興味のある方は大体が街乗りとスポーツ走行の両立を考えている方だと思うので(自分がそうです)、初めてツインスプリングに挑戦する方は密着荷重が1.5G密着の物を選んだ方が失敗しないと思います。
1.5Gのものであれば公差がでても1.3〜1.6Gあたりで落ち着くのでストロークさえとれればツインスプリングらしい乗り味が体感できやすいというのも理由のひとつです。
メインスプリングを選ぶ
使うプライマリースプリングが決まったら相方となるメインスプリングを選びます。
ここまで採寸とちょっとした算数のみで、レートの計算はしていませんが、ここから少しだけ計算が必要です。
メインスプリングの選びかたとしては、プライマリースプリングの密着後、ショックがバンプラバーに触るまでの残りのストロークでどれくらいの荷重を支えれば良いのかを考えます。
先程街乗り荷重は1.5Gと言いましたが、過去の経験上ドリフトであれば+0.2、3G(1.7~8G)、グリップであればひとまず+0.3〜5G(1.8~2.0G)支えられるスプリングであれば良いでしょう。
例えば、バンプラバーまでのストロークが60mmで、ジャッキアップの状態から伸びストロークとして25mm使って接地(ここまでで1G)して、荷重がかかってプライマリースプリングが密着するのに25mm使ったとします(ここまでで1.5G)。
(接地後プライマリーが密着するまでの余荷重は100kgで、100kgを合成レートで割ったものがプライマリー密着までのダンパーストロークです)
このときバンプラバーまでの残りのストロークは10mm。自分のBRZのリヤで1.8Gまで支える様に作りたいとなると残りの0.3G=60kgを10mmのストロークで支えれば良いので、60/10=6kg/mmのメインスプリングであれば用は足ります。
次にメインスプリングが必要とされる許容ストロークと耐荷重を考えます。
バンプラバーまでのストローク分で許容ストロークは最低でも60mm、その間に1.8G分の荷重を支えるので200×1.8=360kgは耐荷重がなければなりません。
また、バンプタッチ後もストロークは多少する分と、プリロードをかけてリバンプストロークを調整する分で実際はこれ以上のストロークと耐荷重が必要です。
この2つの条件を満たした6kのスプリングであればバンプタッチまでの耐荷重が1.8Gのツインスプリングとすることができます。
スプリングのスペックに関してはスペック表を記載しているスプリングメーカーの物を使うと良いです。
4.プライマリースプリングを購入するにあたって
ここまで算段がついたらようやく要件を満たしたスプリングを購入していきます。
プライマリースプリングについては複数社から似たような名前の物がでていますが、筆者はBESTEX製を使用しました。
批判つもりはありませんが、正直BESTEXのプライマリースプリングは今回の使用方法には向かない特性なので、できれば他メーカーの物で用が足りるなら他メーカーの物を使用したほうが安定します。
BESTEXのスプリングを使用する際には下記を参照ください。
5.組み込み後は慣らして様子見
部品がそろったら車高調に組み込んでいきましょう。プリロード調整も忘れずに。
スプリングを2つも使う上におそらくどちらも新品になるケースが多いので、スプリングの初期へたりによる寸法変化が高確率で発生します。
ツインスプリングは生もの・・・とどこかで言われていた気がしますが、定期的に目標寸法からズレていないかチェックしましょう。
ここまでできればツインスプリングの乗り味を感じられる車高調が出来上がっているはず!
6.さらにざっくりまとめる
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自分の車の単輪バネ上荷重を知る
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バネ上荷重の1.5倍の耐荷重をもつプライマリーを探す
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車高調整ができるレベルでケースいっぱいのメインスプリングを探す
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(ここまででできなさそうならあきらめる)
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組み込んだらしっかり慣らす→できあがり
プライマリーの選別が難所なイメージがありますが、耐荷重1.5Gと決めてしまえば選定はそう難しくないと思います。
どちらかというとバンプタッチまでのストロークでメインレートに移行できるかどうか、許容ストロークのあるメインスプリングが組み込めるかどうかがツインスプリングの可否を大きく決めると筆者は思っています。
あえてプライマリーを密着しないor接地で密着させるツインスプリング手法もありますが、今回は割愛します。
「未完の手法」や「マニア向け」と言われている(気がする)ツインスプリングですが、ポイントを押さえてしまえばそこまで複雑なものではないと思います。
よく「ツインスプリング 計算」みたいなワードで検索して、計算が重要な元と思われがちですが、計算は通常のサスセッティングと同レベルだと思います。まずはしっかり測定と採寸をすることが重要です。
いかがでしたでしょうか?ツインスプリングのセッティングについてなるべく失敗しないようにわかりやすく書いたつもりでしたが、話が長すぎた+わかりづらい部分があったかもしれません・・・
この記事がツインスプリングに挑戦してみたいと思った人の目に留まり、少しなりともヒントになれば幸いです。